行政書士試験の民法は条文から攻略する
行政書士試験の民法では、テキストや過去問を何周するかに意識が向きがちです。 しかし、本試験で最終的な判断根拠になるのは、テキストでも過去問解説でもありません。条文と判例です。
択一の問題文には、必ず「民法の規定および判例に照らし」と書かれています。 何が問われているかは、問題文そのものに明記されています。 予備校本や過去問は、条文と判例を理解するための道具と考えたほうが、民法の知識は整理しやすくなります。
民法1,167条のうち、6年で問われたのは174条
まず範囲の話をします。当サイトでは、R2〜R7の行政書士試験の民法(毎年11問・計64問)について、 選択肢ごとに根拠条文を割り当てて集計しています。結果はこうなりました。
- 民法の全条文
- 1,167条
- 6年間で根拠条文になった
- 174条(15%)
- 一度も問われなかった
- 993条
- そのうち2回以上問われた
- 38条
- 1回だけだった
- 136条
6年間で2回以上問われた条文は38条しかありません。判例六法の全条文を覚えるのは現実的ではないので、絞りをかけます。その絞り方の出発点になる数字が、これです。
出題数の上位はここ
実際に上位を並べるとこうなります。カッコ内は、その条文が正解肢の根拠になった回数です。
- #1第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)4問(正解肢1)
- #2第899条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)3問(正解肢2)
- #3第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転)2問(正解肢2)
- #4第419条(金銭債務の特則)2問(正解肢2)
- #5第31条(失踪の宣告の効力)2問(正解肢2)
知識の置き場所を条文と判例に一本化する
勉強を続けていると、次のものが頭の中で混ざってきます。
- テキストで読んだ説明
- 講義で聞いた話
- 過去問集や模試の解説
- 丸暗記した過去問の肢
答えを判断するときは、この余計なものを全部取り除いて、条文と判例だけに知識を絞ります。知識を増やすのではなく、知識の置き場所を一本化するイメージです。 正誤の判断がつかないのは、知識が足りないからではなく、判断の根拠が混在しているからであることが少なくありません。
条文
最終的な判断根拠
判例
最高裁の判断。条文を「生きたルール」に具体化する
★ 試験の正解は、ここと条文にある
過去問演習
使い方次第で、上にも下にも行き来できる踏み台
△ 答えの暗記だけでは条文・判例に届かない
予備校本・入門書
わかりやすく噛み砕いた素材。入り口として有用だが、最終答案の根拠ではない
予備校本で理解 → 過去問で問われ方を知る → 条文と判例に戻って定着
学説(学者による条文解釈の整理。通説・多数説など)は、判例の解釈に影響を与えたり、 過去問の解釈のネタになったりしますが、この階層の外にあります。 行政書士試験で答案の根拠にするものではありません。
教材には抽象度の階層があります。予備校本や入門書はわかりやすく噛み砕いた素材で、入り口としては有用ですが、 最終答案の根拠にはなりません。過去問は使い方次第で上にも下にも行き来できる踏み台です。試験の正解があるのは、条文と判例です。
優先順位をつけて印をつける
全部を同じ濃さで覚える必要はありません。次の順で絞ります。
- 予備校の基本書・講義で出てきた条文・判例
- 過去問・模試・演習本で出た条文・判例
- 平成29年改正で変更された条文
- 1〜3でマークした条文に付されたすべての判例
- 余裕があれば司法書士試験の肢別問題集の条文・判例
このように範囲を絞って判例六法に落とし込めば、重要論点・頻出論点に絞った条文と判例のデータベースが手元にできます。 問題を解くときは、そこにアクセスします。
5番については、当サイトのデータからも裏付けが取れます。民法1,167条のうち、司法試験・予備試験・司法書士試験・宅建で問われた条文は743条あります。うち585条は、 行政書士試験では6年間出ていないが他資格では問われている条文です。 条文ページでは、行政書士の出題実績とは別に、他資格での出題状況も表示しています。
条文は「要件と効果」で読む
重要条文を一字一句暗記する必要はありません。まずどんな条件がそろえば、どんな法律効果が発生するのかという形で整理します。 即時取得(民法192条)なら、要件は5つです。
- 動産であること
- 取引行為によること
- 占有を開始したこと
- 平穏かつ公然であること
- 善意無過失であること
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
問題を見たときに、「この肢はどの要件を問うているのか」を考えられるようになることが重要です。 民法192条を見る →
ひとつの条文から関連する条文へ広げる
判例六法には、条文ごとに参照先の条文が付いています。ひとつの条文に目を通せば、 芋づる式にほかの条文も確認できるようになっています。 分野横断的・科目横断的な知識が身につきますし、この分野だけずっと手をつけていない、という状態も起きにくくなります。
当サイトでは、これを出題データから機械的に出しています。1つの問題の中で同時に根拠になった条文を数えたもので、756条に付いています。 第177条(不動産の対抗要件)の場合はこうなります。
第177条と第162条が6回も同じ問題に出ているのは、時効と登記という論点があるからです。 時効が完成したあとに現れた第三者との関係は対抗問題になり、登記が必要になります。 ここを問うと、必然的に177条と162条の両方が根拠条文になります。
同じことが第899条の2との組み合わせにも言えます。こちらは相続と登記の論点です。 相続による権利の承継を第三者に対抗するには、法定相続分を超える部分について対抗要件を備える必要があります。 ここでも177条と899条の2が同時に出てきます。
つまり、同じ問題で一緒に問われている条文の組み合わせは、多くの場合そのまま論点の名前になっています。条文を1つずつ潰すのではなく、この組み合わせの単位で押さえると効率が上がります。
最終目標は「短期間で全体を確認できる状態」
試験直前に大量の教材を読み直すことはできません。 普段の勉強から重要な条文と判例を一か所に集約しておき、最終的には重要な条文と判例を1〜2日で一通り確認できる状態を目指します。
前に見たとおり、6年間で2回以上問われた条文は38条です。この規模なら、直前期に何度でも回せます。
民法は「条文に始まり、条文に終わる」
最初から六法だけを読んでも、民法はなかなか理解できません。 まずはテキストや講義で制度を知り、過去問で使い方を覚えます。そして最後に条文と判例へ戻ります。
テキストで知る。問題で気づく。条文と判例で確認する。この繰り返しです。教材を増やし続けるより、最終的な判断根拠を条文と判例に集約する。 これが、行政書士試験の民法を効率よく学ぶための基本的な考え方です。
条文から確認する
本ページの出題データは、行政書士試験の過去問(R2〜R7)を独自に分析して根拠条文を割り当てたものです。 公式の集計ではありません。条文は e-Gov 法令検索の法令データにもとづいています。